肥前地方の陶磁器産業などについて研究する長崎県立大学地域創造学部の准教授、竹田英司氏がこのほど、「地域再生の産業観光論」を発刊した。発行は同友館。A5判、216ページ、2640円(税込)。
同書は、肥前磁器の生産地である波佐見町と有田町、美濃焼の生産地の一つである多治見市の事例を取り上げ、地域産業の再生について、産業観光の視点から「地域の稼ぐ力」を検討するもの。竹田氏がこれまで行ってきた研究成果を再編集してまとめており、同氏の研究を集大成ともいえる内容となっている。
同書の特筆すべき点は、日本の陶磁器生産で上位を占める3産地の美濃、有田、波佐見の状況について、多様なデータがふんだんに盛り込まれていることだ。政府や自治体から発表される産業・経済的な統計情報に加え、竹田氏の独自調査による情報も多く掲載し、3産地の状況をあらゆる角度からつまびらかにしている。例えば、「考察:やきもの産地における地域ブランド化と産業観光の育成」の項(177~180ページ)では各産地における産業観光について、年齢層、産業観光の形態、一人当たりの消費額を紹介しているが、3産地間で大きく違いが表れていて非常に興味深い。また、現在の産業観光を語るうえで新型コロナウイルス感染拡大による影響の分析が欠かせないが、同書では全章にわたってその影響を詳細に分析して考察しており、今後の陶磁器業界を展望するうえでは欠かせない資料となっている。
正に陶磁器業界必携の書と言って過言ではないだろう。