異常気象で暑かったり寒かったりの毎日でしたが、やっと九州も梅雨入りです。田んぼには水が張られ、お馴染みの田植えの風景に子どもの頃の思い出がよみがえります。
まだ小学校に入る前くらいでしょうか。母の実家の田植えに従妹たちと集まりおにぎりを食べ、とても楽しかったことを覚えています。腹ごしらえをしたら、ぬかるんだ田んぼに入り、糸を引っ張り、線にした目印のところに2、3本まとめて苗を植えていくのですが、なかなかきれいな一直線にはなってくれず四苦八苦しました。おまけにゴム草履をはいていたのでぬかるみから足が抜けなくなり、ついには草履を植えて帰ることとなりました。泥んこになりながら、ふと足を見るとすねのあたりから血が流れていて、思わず「ぎゃーっ!」と叫びました。ヒルとやらが血を吸っていたのです。私はそれまでヒルの存在を知らず、「何か気持ちの悪いものがくっついているー!」と、それはそれは驚きました。父がすぐに取り除いてくれたものの、子ども心に「田植えは血まで吸われて大変な作業だな」と思ったのでした。
田植えはその一度きりでしたが、大人になってからはこの時期に必ずすることがあります。それは梅酒作りです。実家の庭に梅の木が3本あり大きな実をつけてくれます。それを放置するのがもったいなくて・・・。その年にもよりますが、ホワイトリカーや本格焼酎、美味しいと聞けばブランデーにしてみたり、氷砂糖の量を調節したりと研究(?)を重ねています。また、用が済んだ梅を取り出してかじってみたり、つぶしてジャムにしてみたり、捨てるところは種だけです。
さっそく昨年仕込んだものを飲んでみましょう。砂糖を控えたせいかやや酸味が多く、いかにもフレッシュな感じです。写真のものは2019年に仕込んだもので寝かせた分、色良し、香良し、まろやかな深い味わいがあります。梅雨時のじっとりしたこの時期に、または食欲のない時など、ロックやサワーにして食前酒にいかがでしょうか。クエン酸が疲労回復を促してくれます。もちろん器にもこだわって今回は手作りのグラスと注器、涼やかなものを選びました。マットな青白磁に漂う淡い色づかいの緑はモンステラの葉?それとも海の中の海藻?かしら。波佐見の作家さんなので今度お尋ねしてみましょう。
おつまみは、梅酒が甘いのでそれを生かす季節の淡味を考えます。黒唐津の平たいおせんべいのような形の五寸皿にはミョウガのお寿司。渋い黒に赤く艶やかなミョウガが生えますね。これは2つ割にしてさっとゆで、しんなりと色が赤くなるまですし酢につけておいたもの。すし飯は、そのかすかなミョウガの香りのするすし酢を利用します。そして、すし飯を手に取り、お寿司屋さんをまねて握ります。ミョウガはよく薬味に使いますが、今日は主役です。独特の香りは夏が来たという気分になりますが、実は花のつぼみの部分で食用に栽培しているのは日本だけだそうです。古くからの言い伝えで、「ミョウガを食べすぎると物忘れがひどくなる」とあります。本当でしょうか?最近物忘れがひどくなったのは、ミョウガのせいなのか?年齢のせいなのか?
青白磁の楕円の小鉢の表面には無数の貫入が入っており、冷蔵庫でできる白い氷のような表情です。手取り感の良い大きさと形は小鉢といいつつ向付にもなる存在感で、砕いた氷を敷きつめ刺身を盛るなど大活躍です。今回は新玉ねぎの血液サラサラ和風サラダ。新玉ねぎを薄くスライスしたものを水にさらさないで15分くらい放置したものです。それをこんもりと中央に盛り、その上に削りかつおを載せるだけ。マイルドなやや甘口のポン酢でいただきます。たったそれだけです。玉ねぎに含まれる硫化アリルは血液サラサラ効果がありますが、水にさらしたり熱を加えたりすると、有効成分がなくなってしまうのです。ですから、何もしないで生で食べる工夫をしています。例えば千切りキャベツに混ぜるとか、わかめの酢の物に入れるとかなどです。ささやかですが健康にも気遣って。
では、テーブルには庭のアジサイを飾り、快晴の空のようなブルーのランナーを広げ、おつまみをいただきながら梅酒をゆっくりと味わうといたしましょう。
メニュー | 梅酒、ミョウガの握りずし、新玉ねぎ血液サラサラ和風サラダ |
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器 | ガラス杯(手作り)山下達巳(兵庫県) マット青白磁注器 長瀬渉(波佐見焼) 黒唐津平皿 土屋由起子(唐津焼) 雪青磁小判型小鉢 文三窯(伊万里焼) |
花 | アジサイ ガラスミニフラワーベース フランフラン(東京) |
ランナー | シエナ ル・ジャカールフランセ(フランス) |