九州発!田中ゆかりのテーブル通信[31]4月:春の恵みを食卓に

 新年度になりました。あっという間に桜が終わり、ここ数日は真夏を思わせる程の暑さですが明日からまた寒くなるという天気予報で、いささか体がついていけない感じです。まん延防止法も解除されコロナも落ち着きを見せたかのようでしたが、ここにきて九州は感染者が増加傾向にあります。地元では開催予定の有田陶器市や波佐見の陶器まつりの準備が進んでいますが、うまく事が運ばれますようにと祈る気持ちです。

 先般の日曜日に予定がキャンセルになり自由な時間ができましたのでドライブがてらJAグループの大型物産館に参りましたところ、天気も良かったせいかそれなりの人出でにぎわっていました。ご家族やカップルで楽しそうにあれこれ品定めをしています。広い会場には切り花や植木鉢、贈答に最適なコチョウラン、米、肉や魚、野菜や加工品、手作りのお惣菜やお菓子などがにぎやかに並んでおり、見ているだけで購買意欲がわいてくるのです。特に春ならではの食材、タラの芽やタケノコ、ワラビも出ています。「ラディッシュやクレソンなどもいつものサラダに加えたいな、イワシもおいしそうだけど手作りハムやブランド牛も」と次々に目移りし、最近節約志向だった私のお財布はこの時を境に、堤防が決壊したダムのようにド~ッとお金を放出したのであります。

 というわけでマンネリになりがちの食卓ですが、新年度を迎えた今回は春の恵みを食卓にというテーマにしました。まず、そら豆はさやごと焼いて軽やかな竹ザルに並べます。この素晴らしく美しい網目を見ながらビールを飲み、さやをむきむきしていると、ちょうどいい感じにふっくらと豆が煮えてきます。
タケノコとワラビ、お好みで千切りした天ぷらを入れて、しょうゆ・酒・みりん・だし汁を加えて、落し蓋で煮含めました。器は唐津焼の粉引、縁の輪花はロクロの時に回しながら一つ一つ指で成形したもので、大きさの割には軽くて使いやすく、料理を優しく包んでくれます。

 おにぎりの桜は、私が昨年の八重桜を塩漬けにして冷蔵庫で保管していたものです。市販のものに比べるとやや、ピンクの色が薄暗いですが自然の色となんとも言えない桜の香りは魅力です。さっと塩出ししたのち、綺麗な茎と花を選び、それ以外の不揃いな花弁や茎などは小さく刻んで炊きあがったご飯に混ぜ込みます。俵型に握って桜の塩漬けを飾ります。塩ゆでしたアスパラの穂先を添えて。

 盛り付けるお皿は直径28センチ、高さ3.5センチの白磁の太鼓型の皿です。この形が大変面白く底は高台がないベタ底で、上部と側面と底部が一体化した円盤状で中空の構造になっているのです。空気穴もありません。これって一体どうやってつくっているの~!?やきもの辞典で調べても形の名称がないので、私が勝手に太鼓型と呼んでいます。例えばカラオケを歌うとき、カウンターの椅子に座って歌うより、ステージの上で歌う方が気分がいいですよね。この太鼓型のお皿はお料理のステージのような役割があるように思います。その時々のハレの料理をステージに乗せて楽しんでいるというわけです。

 取り皿は、染付や色絵の盛んな磁器の町・有田で漆黒の天目釉を中心とした作陶で異色の作家・人間国宝の青木龍山作の天目渚です。直径13.5センチのやや小ぶりな銘々皿ですが、黒の中に浮かぶ茶色や銀の砂のような模様に迫力を感じます。でも、シックな色合いなのでお料理や果物などとても引き立ててくれます。そら豆も白い桜のおにぎりもきれいに映ります。お吸い物は庭の三つ葉をたっぷり入れて、竹ざるの色に合わせた木の椀で。

 ささやかですが春の恵みを食卓に、自分を、あなたの愛する人を、楽しませてあげてください。お気に入りの器で。

メニュー三つ葉と手まり麩のお吸い物、そら豆のさや焼き、タケノコとワラビと天ぷらの含め煮、桜のおにぎり、茹でアスパラ
白磁太鼓型盛皿 *不詳(「亀」のような銘あり)
粉引き輪花鉢 中里大亀(唐津焼)
天目渚 青木龍山(有田焼)
木くり椀 はなわくすい(波佐見町)
竹ざる 山下工芸(別府市)
竹箸 山下工芸(別府市)
テーブルクロスOTTOMANIA(オランダ)

 *執筆当時は不詳だった「白磁太鼓型盛皿」は「12月:私のお正月はシンプルに」で判明します!