やきもの曼荼羅[26]日本のやきもの9 唐津(其の二)

唐津焼の基本相と上位相

 唐津焼研究のレジェントである金原陶片(1897~1951)、水町和三郎(1890~1979)の後を継いだのが、日本陶磁協会創立時のメンバーの一人である佐藤進三(1900~68)です。戦前は東京の銀座で「港屋」という古美術店を開いていました。佐藤は、日本陶磁協会編の『唐津』(昭和28年 寶雲舎刊)という陶磁叢書に「唐津鑑賞の二観点」という文章を書いています。その中で、唐津陶には二つの大きな流れがある。一つは唐津陶の根底をなす「基本相(朝鮮的美意識の流れ)」で、もう一つはその基本相を根底としてその上に立つ「上位相(日本古来からの日本的美意識)」だと述べています。さらに興味深いのは「不調和の調和」という佐藤の言葉です。

朝鮮の風物中美しさをとくに感じた事が一つある。それは民家上の瓦の波である。得もいへぬ美しさは一體どこから来るのかと考へて見た。それは不調和の調和である。瓦工は一枚一枚厳格な寸法によつて作つたものではない。瓦として用が足りればいゝので寸法の違ひ等問題にして作つては居ない。従つて縦横どれも合つてはゐない。不ぞろいの瓦が組み合わさつての美しさである。日本の屋根からおよそこのような美しさは見られない。この「不調和」の「調和」の美意識を感得しなければ眞の李朝陶も分らず又唐津陶も解し得ないと信ずる。 

この文章を読むと、李朝好きに古唐津好きが多い理由がよく分かります。イタリアに住む友人の話では、市場に行くと不揃いの野菜や果物がたくさん並んでいる。どれも日本の市場に比べて安いので、イタリアはとても生活しやすいとのことです。同じような話を昔、韓国の人にも聞いたことがあります。日本では、キュウリの形や大きさを揃えて農家が出荷しますが、韓国では形が悪くても味は同じだから選別しないし、値段も安いと聞きました。イタリア人や韓国人のこだわりのない生活ぶりが想像される話ですが、日本とイタリア、韓国の風土や文化の違いを感じます。

唐津は茶陶の中の名脇役

 同じく日本陶磁協会編の『唐津』の中で、『日本美術工芸』誌主幹の加藤義一郎が「唐津のよさ」(「茶陶唐津」所収)について書いています。その中で、「唐津のよさは要するに野放しのよさである」と述べています。

美しさはあつても、雅趣はあつても、それは決してとりつくろつた美しさでも、意識して作り上げた雅趣でもない。これが茶人の意図した侘び、寂びに合致したのである。(中略)要するに唐津は茶陶の中にあつてはワキ役であつて、どう見てもシテに廻るものではない。茶盌にしても漢作名物茶入に伍して堂々と用ひられるものではなく、濃茶を練られることはあつても草庵の侘び用でしかない。薄茶用にしても蔭にまはる替茶盌、茶籠に忍ばすにふさわしく、むしろ独悦茶人の伴侶となる場合が多く、またそれが役所なのである。花生の場合にあつては伊賀・備前の列に入つて比肩しようとも思はず、侘び茶人がその用い場所にあて嵌めるのをいつと待つ唐津である。鉢ならば金襴手、祥瑞の引立て役に廻つて始めから香物鉢と忍従する。茶人よどうか火入の灰を洗つて、それで客にお茶をすゝめ、当世の唐津はこれだというようなことをしないでほしい。火入に生まれたものは火入である時こそ一番美しいのである。唐津は、竹の花入に一段の愛着を感じる茶人の膝下にあつて親まれ愛される宿命を持つものである。

私は、唐津は茶陶の中にあって名脇役であると思っています。歌舞伎も名脇役がいなければ、主役は引き立ちません。名脇役は黙って座っているだけで芝居になり、存在感を放ちます。そして、主役の存在を邪魔せず上手に引き立てています。ただし、加藤義一郎が述べているように、唐津は本来が自由ですから、濃茶席には向きません。独悦茶人向きです。上の写真の「絵唐津輪花茶碗」は、元は向付であったと思いますが、いまは茶碗として使われています。筒形の胴の下の方を絞って締め込み、縦三方に箆先で筋目をつけて変化をもたらしています。普段使いには、とてもいい茶碗です。

日常使いの唐津と上手の唐津

 唐津焼は日々の生活の中で使われる食器ですから、使い勝手がよく、丈夫でなければなりません。成形は基本、蹴り轆轤(ろくろ)です。織部焼のような型抜きや手捻りはありません。複雑な形の向付や火入なども型抜きではなく轆轤成形です。轆轤で引き上げてから箆(へら)で四方にしたり、六角や様々な形に作り上げたりします。図版の「銹絵橋の絵桃形火入」がそれです。元は5客揃った向付でしたが、分散されて火入になったようです。桃形に作った筒形で、胴の片身には橋の絵、反対側には木賊(とくさ)の文様が鉄絵で描かれています。佐賀県武雄市の内田皿屋窯で焼かれたものです。 唐津の土は、山から掘り出した自然のままの土を唐臼でつき、破砕して半年ほど寝かしてから使います。そうでないとパサパサで汚いものになり、水漏れするそうです。自然のままの土ですから荒いものが多く、轆轤が挽きにくいので、どうしても生地が厚くなります。しかし、中には薄作りで繊細な食器もあります。上手(じょうて)の唐津です。それらは明らかに日常の食器とは出来が違い、絵付も丁寧に仕上げられています。懐石に使われるのは、そうした上手の唐津です。これは、唐津の幅の広さを物語っています。