先月の長雨で庭には見たこともないキノコが生えてきてビックリ!!!したのもつかの間、気がつけば9月。朝夕は虫の声が聞こえ、薄手のカーディガンを羽織りたくなります。すっかり秋めいてきて、秋ならではの食材が店頭に並び始めました。これから少しずつ寒くなっていき、また、いつものように慌ただしい年末へと突入するのかと思うと「今年前半はこれでよかったのだろうか?」などの思いが頭を駆け巡ります。その不安な気持ちを払拭させるかのように、せめて美味しいものを食べたいという欲求にかられ食材を買い込んでしまうのです。恐ろしや~。
今年はまだ9月なのに、マツタケを手に入れてしまいました。やはり雨の日が多くて豊作だったからか、例年よりもお値打ちに入手できました。どうしましょう。年に一度のマツタケまつりです。昨年の11月号([14]11月:秋の楽しみ わが家の松茸土瓶蒸し)では我が家の土瓶蒸しとともに器や使い方を紹介しました。読者の皆さんも早速トライしてくださったことでしょう。
今回は土鍋で炊くマツタケご飯です。ご飯の味付けはいつも通りに塩・しょうゆ・料理酒など、ポイントは手で裂いたマツタケを入れます。裂け目からエキスが出てきて、味もつきやすくご飯とのからみも良いようです。長年愛用している土鍋で炊き上げます。私の土鍋では、ガスの強火で約8分するとグツッという音がします。その第一声?を聞き逃さないようにして火を止めます。すると突然、蓋の穴から蒸気がピューッと吹き出します。その後待つこと20分、グツグツいいながら勝手に炊いてくれるのです。キッチンタイマーのお知らせ音と共に蓋を開けるとカニ穴(*)と思しき穴が見え、土鍋の遠赤効果でマツタケのエキスを吸ったふっくらとしたご飯が出来上がります。ざく切りした三つ葉を加え、濡らしたしゃもじで鍋の底からひとかきすると、米の表面に粘り気が出てきてさらに美味しくなります。食卓には土鍋ごと持ち出し、香りを充満させながらもったいぶって家族やお客様の目の前でよそうことにしています。ここが第二のポイントかな。オホホッ。
ここで、飯碗の登場です。春や夏に毎日のように使った磁器の平茶碗はお休みさせて、半磁器や陶器のやや厚みのある深型の飯碗を選びます。この形はとても重要で、これから寒くなってくるとご飯が冷めにくく、碗の縁に唇が触れた時に優しくぽってりとした感触を与えてくれます。「アツアツの炊き込みご飯にはどんな飯碗が似合うかしら」と食器棚を覗いて迷うのもとても楽しい時間です。
写真の飯碗は陶器で、飛びカンナの模様と透明感のある深い青緑と白い釉薬が味わいとなっていて、一般の民芸品とは違ったお洒落な感じがしますね。直径11.5センチ、高さ6.5センチで、私が左手を広げた親指と中指の中にすっぽり納まるほど良いサイズなのです。お供は野菜のぬか漬けを直径11センチの小皿に盛ります。模様は麦わら手、または十草と呼ばれるものです。細い線と太い線、所々に節のようなつなぎ目があり、麦わらのようなという意味です。お茶も冷めにくく、持ちやすい直径5.5センチの細口、高さ19.5センチの十草模様、始まりは庭のトクサという植物をヒントに大昔の職人が描いたとされています。どちらも縞模様ですが、大昔から現代まで飽きの来ない器の定番の絵柄となっています。
野趣たっぷりの墨黒のはつり盆は迫力があります。購入して30年近くになりますが、こちらも飽きのこない愛用の品です。汁次はあえてガラスにしました。中身が見える、そして何より小ぶりですから冷蔵庫の隅に入れても邪魔にならないところが気に入っています。それぞれ存在感のある食器やお盆とのハーモニー、そして9月の気候を思って、つい手に取ったというわけです。
「何を食べるか」ということはエネルギーの源でとても大事なことなのですが、「どのようにして食べるか」も重要で、人の生き方に深く関係しているのです。たった一碗のご飯だけれど・・・そんなことを時々まじめに考えると、何気なく使っている器や道具たちが愛おしくてたまらなくなります。
*カニ穴
炊き上げ直後のご飯の表面にできた穴のことで、炊飯中に蒸気が抜けてできます。これがいくつも出来ると、炊きムラのないおいしいご飯になります。この穴が、砂浜でよく見かけるカニが海水を出す穴に似ていることから、この名がつきました。
メニュー | マツタケご飯、野菜の糠漬け、お茶 |
---|---|
器 | 白柚子流し飯碗 長十郎窯(波佐見焼) 二色十草小皿 和山窯(波佐見焼) 染付十草筒型湯呑 梶謙製磁(有田焼) 炊飯土鍋(3合炊き) 安楽窯(有田焼) ガラス汁次 うつわや酒舎(shasha)(長崎市) 箸 山下工芸(大分) |
盆 | 墨黒はつり盆 大蔵達雄氏(静岡県函南町) |