九州発!田中ゆかりのテーブル通信[14]11月:秋の楽しみ わが家の松茸土瓶蒸し

土瓶蒸しはやはり松茸独特の香りが一番ですね

 秋本番。庭のもみじも色づき始め、山々も紅葉の美しい季節となりました。「Go To キャンペーン」も気になるところですが、相変わらず我が家で過ごすのが大半の生活です。そんな毎日の中で楽しみといえば秋の味覚でしょう。皆様それぞれに大好きなメニューが頭に浮かばれると思いますが、私は迷わず栗ご飯と松茸の土瓶蒸しです。
 栗ご飯は父が好きだったということもあり、秋になるとよく食べます。今も作るたびに父のことを思い出します。栗の鬼皮と渋皮をむく作業はひと仕事で修行のようなものですが、栗と米、お酒、薄口醤油とわずかに塩を加えてご飯を炊くと栗を通して木の香りがほのかに漂いなんともいえない味わいになります。温かさと香りが楽しめるように、厚手で深めの飯碗によそいます。磁器でもいいけど、陶器のぽってりとした感じもお勧めです。
 そして、もう一つは松茸の土瓶蒸し。料亭でいただくもののように思いがちですが、数年前にスーパーで何気なく購入したカナダ産の松茸を土瓶蒸しにしてみたところ、ことのほか美味しく出来上がり虜になってしまいました。何がいいかといえば、やはり一番は松茸独特の香りでしょう。マツタケオールという香りの成分のなせる業ですが、これを喜ぶのは日本人だけで、欧米の方にはむしろ嫌われる匂いなのだとか。また、二つ目は汁の美味しさです。美味しい出汁を使うことは必須ですが、土瓶の中にエビや魚、かまぼこ、鶏肉、ぎんなん、三つ葉などを入れ15分ほど蒸すことで、沢山の具のうまみや香りが溶け込み、汁がさらに美味しい味へと変化します。それを好みのぐい飲みに注ぎ入れ、「今日の味はどうかな?味付けはうまくいったかな?」などと言いながら舌の上で熱い汁を味わっていると体までぽかぽかになるのです。三つ目は、松茸の食感や沢山の具をおかずのように楽しめるということです。今回はムカゴも入れてみました。後半にスダチを絞り入れますと、また味が変化し違った雰囲気を楽しめます。
 松茸は最近絶滅危惧種になったそうですが、そもそもいつから食するようにたのでしょうか?縄文時代にはキノコ食が始まっていたようです。日本書紀や万葉集にも松茸の短歌が詠まれており、平安時代には貴族が松茸狩りを季節の行事として楽しんでいました。安土桃山時代には武士が、江戸時代には一般大衆が楽しむところとなり、昭和の戦前までは庶民の間でも続いていたようです。主に赤松の林に生育するようですが、私が住む有田焼産地もかつては赤松があり「松茸がよく立っていたよ」と先代の柿右衛門さん(14代)がおっしゃっていました。
 土瓶蒸しはその名の通り、鍋で沸騰させるのではなくじっくり蒸すからこそ香りも飛ばずに美味しく出来るので、土瓶がほしいですね。今回使ったものは料亭でよく出てくる弦付きの酒器のようなものではなく、急須に似た形をしています。陶器に飴釉の控えめな色が食材を引き立ててくれます。直径10センチ、高さ6センチの大きさ、持ち手はキノコのようで可愛らしいですね。あまり高さがない方が蒸し器の蓋がしっかり締まり、安心です。
 お酒を飲みながら中身はおつまみとして食べるのが私流。私の夫はお酒よりもご飯派で、おかずとして沢山食べたい人です。夫の土瓶は直径13センチ、高さ7センチと大きいのですが、実は25年前頃にほうじ茶用として求めた急須です。灰釉のグレーと釉裏紅でしょうか、紫色のアクセントがとても素敵だと思ったのです。今ではすっかり土瓶蒸し用になってしまいました。これには大ぶりのぐい呑みを合わせます。「今日の気分はこれで」みたいな選ぶ楽しさがあります。
 このようにご家庭で楽しまれる場合は、専用の土瓶蒸しがなくても急須や蓋物で代用されるとよいでしょう。

メニュー松茸土瓶蒸し(具:鯛・エビ・鶏ささみ・ギンナン・ムカゴ・昆布・三つ葉)
私用:飴釉土瓶蒸しセット 田中乾山窯(伊万里焼)
夫用:灰釉釉裏紅急須 25年前頃京都にて購入
斑(まだら)唐津ぐい呑み 土屋由起子(唐津焼)