九州発!田中ゆかりのテーブル通信[13]10月:心を満たしてくれる不思議な器の力

 昨年9月より始まりましたテーブル通信は、お陰様で一年になりました。先月はお休みをいただき、今後どのような内容にしようかと自問自答しておりました。テーブルコーディネートを見て楽しんでくださった皆様に今までの延長線上でもっと身近で生活に役立つことを具体的にお知らせしたい、そして読者の皆様がチャレンジしてみたくなるようなご提案ができたらと考えています。


 私事ですが、母が今年86歳になり少しずつ介護の時間も増えてきました。母は料理をほとんどしませんので、介護のときは私が必ず作ることにしています。ご飯とみそ汁は必須で、おかずは栄養のバランスも考えながらその日の気分で。ただ、仕事に出かけたり、出張したりという日もあり、毎日三食まかなうのは至難の業です。できる範囲内で作りおきをしてはみるものの、冷蔵庫内を確認するのを忘れて食べていないときもあり、なかなかうまくいきません。そんな中、私の弟がある食事宅配サービスを見つけてくれました。期日を決めて注文すると日替わりのおかずを届けてくれ、容器も洗っておけば回収もしてくれます。出来立てにはかないませんが味も上々で、食事の手渡し時には安否確認もしていただけるとあって、非常に助かっています。
 その一方で、一人の食事は寂しいもの。味気ない容器なら、なおさらです。とは言うものの、面倒くさがりな母は、器を出すのも洗うのも億劫に感じるでしょう。何か良い方法はないかと考えていましたら、とても素敵な波佐見焼の器に出会いました。一枚のプレートで仕切りがあるお皿です。早速、盛り変えてみました。汁気のあるおかずも味が混ざることもありません。サイズは縦19.5センチ、横22センチ、重さは、わずか310グラムと軽量です。これなら洗って拭いてしまうという作業も苦になりません。何より絵が素敵です。伸びやかな南天の枝と実の線がイッチンという技法で描かれています。土に絵の具を混ぜたものを容器に詰め生クリームを絞るがごとく、針のように細い先端の穴から絞り出しながら描いていきます。線が少し盛り上がり、細いところや重なって太くなったところなどが手描きならではの味わいとなり独特の雰囲気を醸し出しています。
 当初は、赤い実の絵柄が母のお皿、青い実が私のお皿と思っていたのですが、母が青の実の方を選びました。盛り付けてテーブルに運ぶと、「きれか~(きれい)」を連発して喜んでいます。「いつものおかずセットよ」というと「え~っ!味が違うみたい」「いつも、こうして食べないとね」と器の力に驚き感動しているようでした。
 高校生だった私に、担任の先生が教えてくださいました。「たとえ買ってきたお惣菜でも器に盛りつけましょうね」と。その言葉に今も感謝しつつ実行しています。

メニューおかずセット:ホウレンソウ・ニンジン・ゴボウ・モヤシの胡麻和え、ダイコン・ニンジン・シイタケ・インゲン・ちくわの煮しめ、白身魚のフライとキャベツ炒め
キュウリぬか漬け
黄桃シロップ漬け
南天仕切り皿と南天蕎麦猪口(赤、青) 大新窯(波佐見焼)