やきもの曼荼羅[12]やきものの基礎知識

 昔から「陶をもって政を知る」と言われますが、やきものには、その国の政治だけでなく文化も色濃く繁栄されています。日本のやきものは、中国や朝鮮半島からの影響を受けて大きく発展しましたが、しかし、それらは同質ではありません。それぞれを比較することで、はじめて中国陶磁の本質、朝鮮陶磁の本質、日本のやきものの本質が見えてきます。そういう意味では、比較陶磁史という学問が必要ではないかと考えます。


 中国陶磁についてお話する前に、やきものの基礎知識(分類)について少しお話しておきます。皆様は、すでにご存のことと思いますが、基礎知識というものは、いまさら聞けないことが多く、知ればなるほどと納得することが多々あります。
 やきものは大雑把に4種類に分類されます。土器、陶器、炻器(せっき)、磁器の4種類です。この分類は、明治以降にヨーロッパから入ってきたもので、日本や中国のやきものの分類とは合わないことがあります。

土器

 やきものの歴史は土器にはじまります。土器の原料は粘土で、焼成温度は700℃~800℃前後です。土器とは、比較的低い温度で焼成した無釉のやきもののことです。焼成温度が低いのは、地面に浅い穴を掘り、そこに土器を置いて、木の枝などをかぶせて焼いたからです。この焼成法を野焼きと呼びます。この野焼きというのは、もっとも原始的な焼成法で、世界の各地で見られます。日本では、縄文土器(写真)・弥生土器・土師器(はじき)などが、これに当たります。縄文土器の起源は世界的に見ても極めて古く、最近の報告では約1万5000年前と言われています。縄文土器の後、極めて薄手で均整のとれた弥生土器が登場しますが、縄文晩期には稲作農業が開始されます。古墳時代には、弥生土器の系譜をひく酸化(さんかえん)焼成による土師器が生産されます。
 中国の最古の土器は、およそ1万1000年前のもので、江西省万年県仙人洞洞穴遺跡から出土した夾砂紅陶(きょうさこうとう)です。日本の縄文土器からは4000年程遅れています。低火度焼成で、石英粒を含んだ胎土のあらい土器と報告されています。さらに3000年後には、同遺跡の上層から泥質灰陶(でいしつかいとう)という土器が出土しました。他にも土器としては白陶・黒陶・彩陶などがありますが、「土器」という文字は用いられず、すべて「陶」の文字が使用されています。

炻器

 炻器は、西欧でいうストーンウェア(stone ware)の訳語で、還元(かんげんえん)で固く焼き締められたやきものを総称して呼びます。ストーンというからには、元来は石ものをいうのでしょうが、日本では土ものに分類されています。炻器の原料は粘土で、焼成温度は1200℃です。5世紀代に朝鮮半島から窯(あながま)を用いた還元焼成による須恵器が、その技術者とともに伝えられると、固く焼き締まったやきものが生産されます。日本では、須恵器や常滑焼(写真)・信楽焼・備前焼などの焼締陶、朱泥急須が炻器に分類されます。わが国では、陶器に釉薬が掛かっているかいないかで陶器と炻器に分かれるようですが、西欧では、釉の有無を問わず、1150℃~1300℃の高温で焼成された磁器と陶器の中間のやきものをいうようです。

陶器

わが国では土もの(陶土を主原料としたやきもの)を総称して陶器と呼びます。広義では炻器も含みますが、現在では釉薬を施したやきもの、施釉陶器(せゆうとうき)をいいます(写真)。陶器の原料は粘土で、焼成温度は1000℃~1250℃前後です。釉薬とは、高温で熔(と)けてガラス状の皮膜になり、やきものの表面をおおったものです。磁器は陶石を砕いて使いますから、全体がガラス化しており、吸水性はなく、明かりに透かすと光が透けて見え、叩くと金属音がします。磁器に比べて、陶器は充分に焼き締められず、粒子の間にすきまがあるので吸水性があり、光は透けず、叩くと鈍(にぶ)い音がします。
 中国の最古の施釉陶器は3500年前の商時代の灰釉の掛かったもので、わが国では陶器に分類しますが、中国では陶器という概念があまりなく、磁器と捉えているようです。

磁器

 磁器の原料は陶石(磁土)で、焼成温度は1300℃~1400℃です。磁器の原料である陶石は純度の高い珪石(けいせき)、長石(ちょうせき)、カオリンが自然に混ざってできた石です。中国では1300℃で磁器が焼かれていたといいます。この3つの成分には、それぞれ役目があります。珪石はやきものの強さに影響し、珪石が少ないと壊れやすくなります。因みに、宝石の水晶は不純物の少ない珪石です。長石は高温になると融(と)けてまわりの成分をくっつける接着剤のような役割をします。カオリンは磁土とも呼ばれ、これによって自由に形を作ることができます。やきものの生産地として世界的に有名な景徳鎮の近郊にある高嶺(ガオリン)というところでたくさん採れたので、その地名がなまってカオリンになったといいます。カオリンはそれだけでも最上質の粘土として用いられます。人間に例えると、珪石は骨、カオリンは筋肉、長石は皮膚と言えるかもれません。日本では、1610年に九州肥前の有田(佐賀県)の泉山で陶石が発見され、磁器の生産がはじまります。中国の景徳鎮窯で制作された古染付を手本とした初期伊万里(写真)と呼ばれる染付磁器です。その後、景徳鎮系の新技術を導入した初期色絵(古九谷様式)、柿右衛門様式、鍋島様式へと発展していきます。因みに、韓国では主食器は金属です。高麗時代から朝鮮王朝時代に掛けての朝鮮陶磁の流れは、磁器を求めての展開でした。

 以上のように、やきものの分類だけをとっても、日本と中国・韓国ではかなりの違いが見られます。