九州発!田中ゆかりのテーブル通信[59]9月:「はしり」と「なごり」

夏野菜のピクルス、サンマの塩焼きとカボス、大根おろし

 9月も半ばというのに今日(15日)は気温35度、湿度80%。暑さ寒さも彼岸までとよく耳にしますが、最近は一体どうなっているのでしょう。早く涼しくなってほしいものです。そんな折、テレビのニュースで北海道のサンマが大漁だと報じられていました。秋になると必ずと言っていいほどサンマの塩焼きが庶民の食卓に上っていましたが、子供の頃から、炊き立ての白ご飯とともにいただく脂ののったサンマは格別でした。それが今や高嶺の花に。

 今回の連載では、「はしり」、つまり今年初めてのサンマを塩焼きにしたいとつらつら考えていたのですが、スーパーの鮮魚売り場で見ても値段は高いし、やせ細っているし、イマイチだな~と思っているうちに時が流れしまい、昨日になってやっと生サンマを仕入れてきました。でもやっぱり身が細い~。気を取り直し、バットに魚を並べて、ヒマラヤンピンクソルトをミルでがりがりしながら振りかけます。こうすることで焼き上がりの姿が違うように思います。七輪ではなくガスレンジのグリルで焼きます。脂がのった美味しいサンマだと受け皿に脂が滴り落ちるのですが、今回は残念ながら滴るほどではありませんでした。

 サンマは漢字で「秋刀魚」と書くように、刀のように平べったく長いですね。せっかくのこの形を生かして、長い姿焼きのまま長皿に載せたいと思います。この皿は陶器で手作り、唐津焼系武雄焼・汲古窯のものです。たたら(板状)にした生地を手でひねって表情をつけ、黒と灰色の2色の釉薬を掛け分けたもので、この技法を朝鮮唐津といいます。2色の対比と境目のにじんだ景色が迫力です。

 カボスは必ず添えることにしています。脂ののったサンマにひと絞り振りかけるだけで、さっぱりと料亭の味に変身、味が洗練されるように思います。大根おろしはたっぷりといただきたいので別皿に。唐津焼・由起子窯の黒唐津の小鉢が大根をより白く新鮮に見せてくれます。釉薬のややマットな感じが料理を選ばず重宝しています。箸置きもおそろいを選びました。この形は恐らく粘土を針金で切ったのでしょう。潔さが伝わってきます。

 一般的にサンマには付き物となっているカボスや大根おろしは、栄養学的にも理にかなっているといわれています。サンマの脂はDHAやEPAなどの不飽和脂肪酸を多く含み、酸化しやすい性質を持っています。しかし、大根やカボスに含まれるビタミンCがその酸化を防ぎ、サンマのビタミンEとともに相乗効果を上げるのだそうです。また、大根には食物繊維や消化を助けるジアスターゼなどの消化酵素が含まれていて、胸やけなども防止することができるといわれています。

 箸休めには、片口のガラス小鉢に夏野菜のピクルスを。ほどよい酸味は食欲を増進させます。消毒した空き瓶にキュウリ・タマネギ・ミニトマト・オクラなどを入れ、ピクルス用液と好みのハーブ、ペッパー、ベイリーフなどを漬け込みます。と言っても、冷蔵庫にしまうだけの「簡単版」です。

 これらをビールで楽しみながら、締めは「なごり」の冷や汁です。「なごり」とは「今年最後の」という意味です。つまり、今回のメニューはサンマで秋の「はしり」を、冷や汁で夏の「なごり」を同時に味わうという趣向です。

冷や汁

 この冷や汁は宮崎の郷土料理と聞いていますが、有田や波佐見の窯元の皆さんも暑い夏を乗り切るために時々召し上がっているそうな。作り方は、だし汁に味噌やすりゴマ・練りごまを加え、味噌汁よりも少し濃い目に味付けして、冷やしておきます。ここで平茶碗の登場です。そこにご飯をよそい、冷たい豆腐、キュウリの輪切り、みょうがやシソの線切りを載せ、冷やした汁を回しかけていただきます。氷を浮かべてもいいですよ。も~最高です。大盛りになってしまいましたわ。オホホっ。

 スプーンレストにしたものは八戸窯の練り込みの箸置きです。練り込みとは色のついた土を巻きずしのように巻き込んで、金太郎あめのようにスライスして模様を作る技法です。大変根気のいる作業と思われます。お気に入りの器で今月も至福のひと時です。

メニュー夏野菜のピクルス、サンマの塩焼きとカボス、大根おろし、冷や汁
朝鮮唐津波板皿 汲古窯・峰松義人(唐津焼系武雄焼)
黒唐津小鉢 由起子窯・土屋由起子(唐津焼)
黒唐津箸置き 由起子窯・土屋由起子(唐津焼)
ガラス片口金箔小鉢 たち吉(京都)
ワイングラス・バンビS 木村硝子(東京)
平茶碗・紺地赤輪 白山陶器(波佐見焼)
カトラリー竹箸 山下工芸(大分)
黒唐津箸置き 由起子窯・土屋由起子(唐津焼)
木製スプーン DEAN&DELUCA(東京)
練込み箸置き 八戸窯・西岡孝子(佐賀)
飾りおもちゃカボチャ JA新鮮市場「伊都菜彩」で購入