九州発!田中ゆかりのテーブル通信[47]9月:秋の気配を感じたら

アイスコーヒー、イチジクのコンポート、バウムクーヘン

 9月に入り朝夕はずいぶん涼しくなりましたが、いまだに日中30度超えは続いており、だらだらと夏が延長されているような気分です。私自身の衣替えルールとして、以前は「白いお洋服はお盆まで」と決めていたのを、最近は「8月末まで」と変更したものの、今年はいまだに衣替えもできずにいます。

 ところが、庭や裏山を眺めていると秋の準備が少しずつ始まっていました。栗の木には緑の小さなイガイガが実っており、柿の木も葉は青々としているものの可愛い実がちらほら見えます。

 このごろ店頭でよく目にするのがイチジク。どうしても食べたくなります。漢字で「無花果」と書きますが、実の内部に多数の小さな花が咲いています。包丁で真二つに切った断面は宝石のように美しく、皮をむけばすぐ食べられる手軽さです。洋風なら生ハムを巻いて前菜に、カットしてサラダに入れたり、和風なら胡麻マヨネーズをかけて向付や天ぷらに、パンやお菓子、デザート用のジャムに加工したりと、この時期ならではの楽しみです。

 その中でも毎年といっていいほど作り続けているものが、イチジクのコンポートです。皮をむき鍋に並べ、砂糖と水、白ワインを少々入れ、落し蓋をして15分ほど煮るというシンプルなデザートです。冷蔵庫で冷やしてから食べるのですが、独特の甘い香りが口の中に広がり、とろける果肉の柔らかさと小さな種がプチプチとはじける歯ごたえがアクセントになって、味わっているうちにすっとなくなってしまいます。出盛り期には多めに作り、ヨーグルトやアイスクリーム(特にハーゲンダッツがおすすめ!)にも合わせて楽しみます。栄養価も高く、ビタミンやミネラル、食物繊維も豊富で、女性ホルモンに似た働きをする植物性エストロゲンやポリフェノールなども含まれています。

 今回は菊割の高台皿(コンポート)に盛ってみました。汁の赤い色はイチジクから出た自然のポリフェノールの色で、白磁に映えますね。かすかな白ワインの香りとともに一滴も残さずいただきます。おそろいの菊割銘々皿にはバウムクーヘンを。
 菊割とは秋に咲く日本の代表的な花、菊の大輪をかたどったもので本来ならば秋の器といえるでしょう。ただ、あまりにも形が美しく料理も映え、使い勝手も良いことから、今では1年を通して使われています。飽きの来ない器の定番ですね。

 のどを潤すのはアイスコーヒーです。お代わりはピッチャーに入っています。コップには氷を入れて贅沢に。こげ茶の焼き締められた南蛮の生地を通して、飲み物の温度、湿気がじんわり手に伝わってきます。コップの中ほどが細くなっており握りやすく、飲み口も陶器の割には薄造りで口当たりがよく、冷たい飲み物に合います。

 ちょっと昔になりますが、このセットはある喫茶店のメニュー、ビールセットとして、喫茶店から頼まれて私が考案したもので、ピッチャーにビールを入れ御客の目の前でコップに注いで提供するというサービスを前提に製作したものです。驚きと共に「さすが器の町!」と、とても喜ばれました。残念ながら現在はビールセットのメニューはお休みなのですが、アルコール好きの私としては早期の復活を願っているところです。

 秋の気配を感じながら、器やテーブルクロスなど少しずつ変えていくのはとても楽しい作業です。こげ茶の陶器に合わせてシックな色遣いのフレンチリネンを選びました。模様も単純な柄で和風にも洋風にも、さりげなく溶け込んでくれます。

 庭のお花は日照り続きで、小さなバラのつぼみのみ。そこで、オリズルランの子株をエナメル彩のぐい呑みに入れてみました。水さえ入れておけば1年くらいは元気にしています。花のない時など、観葉植物の緑のひと葉だけでも食卓を潤してくれますよ。

 涼やかな秋が待ち遠しいですね。お散歩途中に落ちていた青いイガグリさえも食卓に飾りたいこの頃です。

メニューアイスコーヒー、イチジクのコンポート、バウムクーヘン
南蛮焼き締めピッチャー 瀬兵窯(伊万里焼)
南蛮焼き締めコップ 瀬兵窯(伊万里焼)
白磁菊割高台皿 観山窯(有田焼)
白磁菊割銘々皿 観山窯(有田焼)
エナメル彩ぐい呑み 不詳
カトラリーフォーク&スプーン MEPRA(イタリア)
テーブルクロスボスポアーレ ル・ジャカード・フランセ(フランス)