第73回正倉院展が10月30日から、奈良国立博物館(奈良市)の東新館と西新館で始まった。同展は聖武天皇遺愛の品々約9千件の宝物の中から選んで公開するもので、今年も楽器、調度品、染織品、仏具、文書・経巻など55件が出陳されている。昨年同様予約制とし、来場者の密集を避けた。会期は11月15日まで。観覧には「前売日時指定券」の予約・発券が必要(公式HP参照)。当日券の販売はない。
大陸との交易が栄え、律令制の下に中央集権化が進み、奈良の都に仏教文化が花開いた天平時代。展示品の中では、宝玉を連ねた綬帯をくわえて飛ぶインコをあしらった絃楽器の螺鈿紫檀阮咸(らでんしたんのげんかん)と、蓮の花をかたどった香炉の台座・漆金薄絵盤などがこの時代の文化の華やぎを伝えている。一方、当時の社会不安を仏の力によって解消しようと聖武天皇は、東大寺毘盧舎那仏を造立した。今回展ではこのとき奉納された白瑠璃高坏や楽舞で使われた装束などを展示している。染織品も見どころで、鳥や獅子の文様を描いた曝布彩絵半臂(ばくふさいえのはんぴ)や夾纈(きょうけち)染めの幡などが目を引く。中でも、今回初出陳の茶地花樹鳳凰文﨟纈絁(ちゃじかじゅほうおうもんろうけちのあしぎぬ)は﨟纈染めであることが明らかになった品。このほか、筆、墨、硯(すずり)、紙など文房具がまとまって出陳されていることも大きな特徴で、文字によって発展してきた文化であることを改めて知る機会となった。
同館では「不穏な昨今ながら、潤いあるひとときをお過ごしいただければ」と来場を呼びかけている。また、動画配信も行っている。
奈良国立博物館