生活雑貨製造販売の中川政七商店(奈良市、千石あや社長)は4月14日、同社初の複合商業施設「鹿猿狐(しかさるきつね)ビルヂング」(奈良市元林院町22番)を開業した。創業の地でまちづくりの拠点、さらに観光エリア「ならまち」の新ランドマークとしての役割を担う。
総工費4憶円を掛け建てられた同施設は、鉄骨3階建(延床面積795.84平方メートル)、瓦屋根の建物正面はガラス張りで、「ならまち」の町並みや興福寺五重塔が望める。旗艦店「中川政七商店 奈良本店」(1、2階)、ミシュラン一つ星掲載店によるすき焼き店「きつね」(1階)、奈良初出店のスペシャルティコーヒー店「猿田彦珈琲」(1階)、3階はコワーキングスペース「JIRIN」で構成。施設名は中川政七商店の鹿、猿田彦珈琲の猿、「きつね」の狐から命名した。設計は東京大学名誉教授で建築家の内藤廣氏が手掛けた。
奈良本店
メインとなるショップ2階は衣・食・住関連アイテムで構成する。同社の代名詞ともいえるかや織の「花ふきん」などふきん類を筆頭に、同社がこれまで全国の作り手と生み出したオリジナル商品約3000点のみで構成する。限定品の奈良・赤膚焼小皿、食品を含む「産地」シリーズで展開する京焼・清水、信楽、丹波、瀬戸などの「産地のうつわ」類、さらに新発売の「七」と工芸品の「工」の漢字をモチーフとした呉須手描きの有田焼茶碗、皿、湯呑みの食器や衣類などの布製品をラインアップする。
また1階ショップでは地元奈良県在住の陶芸家として、尾形アツシ氏「刷毛目の器」「ヒビ粉引の器」、辻村唯氏「自然釉の器」、畑中篤氏の急須類を紹介、展示販売している。
さらに同施設と中庭と路地で結ばれる築130年の町家(「旧 遊中川 本店」)は、奈良本店の一部としてリニューアルした。ここでは衣類の展示販売や好きな麻生地で座布団やのれんのオーダー、ハンカチの刺繍もできる「おあつらえ処」を設ける。このほか「茶論 奈良町店」、蔵を改装したギャラリー「時蔵」および「布蔵」も併設している。
JIRIN
同社は昨年から、個人店によるスモールビジネスのサポート支援プロジェクト「N・PARK PROJECT」を開始、奈良のまちづくりに取り組む。コワーキングスペースの「JIRIN」はその拠点となる。日本の選書家、ブックディレクターのBACH・幅允孝氏が選書したライブラリ、同社が企画する学びのプログラムやイベントを実施する。
そのほか
1階の猿田彦珈琲では、三重の陶芸家内田鋼一氏が監修したオリジナルマグ、皿の販売のほか、マグは店内客用のホットコーヒーにも使用されている。
「ならまち」は町名としては存在しない。「古都奈良の文化財」の一つとして元興寺が世界文化遺産に登録(1998年)され、周辺の街並みはそのバッファーゾーンに位置付けられた。同ゾーン内には奈良町資料館、ならまち格子の家、美術館などの施設が整備され、新たな奈良の名所となっている。