九州発!田中ゆかりのテーブル通信[17]2月:おでんで温まろう!楽しみ方、いろいろ

おでん:大根、ごぼう天、丸天、こんにゃく、卵、揚げ豆腐、巾着、椎茸、ちくわ、昆布、三食玉、里芋、アキレス、佐賀牛すじ

 冬の料理といえば鍋物ですが、その中でもおでんは実に庶民的で温かみのある家庭の雰囲気がします。肌寒い夜に大鍋の蓋を開けるとふわふわと湯気が立ち上り、その中にたくさんの具材が煮込まれていて、さて、何から食べような?次はどれにしようかな?と、大人になった今でも迷って楽しんでいます。
 おでんに使う豆腐は奈良・平安時代、古くは遣唐使の僧侶により伝えられたといわれており、室町時代にはみそ付き「豆腐田楽」が作られています。拍子木型に切った豆腐に竹串を刺して焼き、辛みそをつけた料理で、その形が「田楽」という笛や太鼓に合わせて踊る田植え豊穣祈願の田楽舞に似ていることからその名前がつきました。この「田楽」に「お」をつけて丁寧にし、「楽」を省略して「おでん」となったようで、宮中に仕える女房が使用した隠語の女房言葉といわれています。江戸時代には「豆腐百珍」という豆腐料理本が出ていますが、そこでも豆腐田楽が紹介されています。大阪ではこんにゃくを串に挿して味噌をつけたこんにゃく田楽も考案されました。また、この時代は屋台が発展し、串に挿した田楽は単身者が多かった江戸では早くてうまいと人気になりました。煮込みおでんの登場は諸説あるようですが、明治時代にはおでん専門店が始まり、汁気たっぷりに煮込んだものは特に人気があったようです。それが大正時代には関西に伝わり、みそだれおでんと区別して「関東煮(かんとだき)」と呼ばれ、おでん専門店が続々開業し発展していきます。1955(昭和30)年頃から復興する経済とともに、練製品などが販売されると、種類豊富なおでんが家庭でも作られるようになりました。また、おでんの素などもスーパーの店頭に並ぶようになり、平成から令和へと移りゆく現在でも、人気鍋料理の上位に君臨し続けています。
 おでんの思い出は高校生の時、ある日の家庭科の調理実習の献立が「おでんと茶飯」でした。今まで母の料理を食べる専門の私が初めて作ったのです。昆布とカツオの出汁と調味料、煮込んだ具材からしみ出てくる旨みの働きでこんなにもおいしい汁になるのかと、とても驚きました。そして茶飯。ご飯を炊くときに茶の葉を布に包み一緒に炊き上げる、いたってシンプルなものです。なんとも香ばしいような良い香りのご飯で、それがなぜだか、おでんにとても良く合うのです。それ以来、おでんと茶飯は最強のコンビとなりました。

土鍋の持ち手や縁の大胆な細工が料理の額縁となり、料理を引き立てます

 大鍋や土鍋に毎年その日の出会いの食材を取り入れながら仕込みます。味は吸い物よりもほんの少しだけ辛め、しょうゆも色付け程度に。一度火を通したら、ぐらぐら煮込まず沸騰直前をキープして芯まで温める感じで仕上げますと、汁も澄みきって味もスッキリ。お客様に出す時や翌日食べるときは、吸い物くらいの味の一番だしを土鍋にはり、味をたっぷり含んだ具を温めなおしていただきますと、おでんの格が上がり評判も上々です。土鍋の遠赤外線効果で、脂肪やたんぱく質などの食品自体の分子を直接振動させ熱を加えることで、中からじんわり火が通るため美味しく仕上がるのです。写真の土鍋は四角い形のため豆腐などが煮崩れしにくく、木蓋になっているので粋な雰囲気です。耳(持ち手)や縁の削りの細工も大胆で存在感があり料理の額縁になってくれます。長年使っても飽きることなく、愛用の品です。

長年愛用するたち吉の土鍋。木蓋が粋な雰囲気ですね

 レトルトやコンビニおでんも手軽で便利で美味しいですね。時間や気持ちに余裕があったら、ぜひ、小さな土鍋に移して温めながら小ぶりのトマトやブロッコリーなども入れてみてください。彩りも良くなり、栄養バランス、味の変化など言うことなし。たとえ一人の食卓でも、おでんも体も芯からぽかぽか、さらに美味しく楽しめることでしょう。

メニューおでん:大根、ごぼう天、丸天、こんにゃく、卵、揚げ豆腐、巾着、椎茸、ちくわ、昆布、三食玉、里芋、アキレス、佐賀牛すじ
土鍋 たち吉
黒唐津深皿 土屋由起子(唐津焼)
ガラス辛子入れ メーカー不明(ドイツ)
調理器具、金物大鍋(ステンレス) クリステル(フランス)
銅製網杓子(豆腐すくい) 鳥井金網工芸(京都)