九州発!田中ゆかりのテーブル通信[6]2月:雛祭りのお茶会・小さな器を集めて

 明かりをつけましょボンボリに、お花をあげましょ桃の花
 五人囃子の笛太鼓、今日は楽しい雛祭り

 押し入れの中の雛人形を取り出しながら思わず口ずさんでしまいます。子供の頃の記憶が鮮やかによみがえり、祖母や若かった母、子供の私が人形を飾っているのです。
 雛祭りは中国から伝わった上巳の節句に起源があり、3月のはじめの「巳」の日に厄を祓うために酒を飲み、水浴びをして身を清めていました。それが日本の禊(みそぎ)の風習と合わさり、日本でも上巳(じょうし)の日に水浴びをするようになり、やがて身代わりの人形を作って、川などに流し始めたのが流し雛の始まりといわれています。また、室町時代には上流階級の女の子たちの「ひいな祭り」と人形遊びと合わさって、今の雛祭りの原型となりました。江戸時代になると庶民の間にも広まり、裕福な商人たちは雛段やお内裏様、調度品や桃の花を飾るようになり、桃の節句とも呼ばれるようになりました。
 白酒、菱餅、蛤(ハマグリ)などのご馳走でお祝いをします。女の子のお祭りですから白酒はアルコールを控えて、菱餅は白い雪が融け、緑になって花が咲くという自然界の様子を表したものといわれています。緑色はヨモギの色ですが昔は母子草(ハハコグサ)を使いました。母子健やかにとの願いからです。蛤は二枚貝で一対になっており、他の貝とでは殻が絶対に合わないことから、女子の貞操の印ともいわれています。
 お雛様を飾らず押し入れに入れっぱなしにしていると「世に出ない」といわれ嫌います。また、3月3日を過ぎても飾っておくと婚期が遅れると心配されます。雛段に調度品や嫁入り道具を飾るのも、女児の幸福な縁組を願う親心からなのでしょう。

豆皿で可愛らしいお膳遊び

 日本のお皿は様々な大きさや形が豊富にあるのが特徴ですが、ご家庭で使用頻度の高いものは取り皿や小皿でしょうか。取皿は銘々皿とも呼ばれ大きさは5~5.5寸くらい、小皿は3.5寸くらいです。さらに小さく2.5寸以下のものを豆皿と呼びます。豆皿とは、豆を入れる皿ではなく小さくて可愛いという意味です。小さなおかずや珍味や薬味を乗せたり、箸置きと兼用したり重宝します。
 ここでは朱塗りの膳に女の祭りらしさを感じさせる色や柄や形のものを並べ、嬉しさや楽しさを表現し、数種のオードブルを盛り付けます。和食器の取り合わせは、上から見た時いろいろな形があり、横から見た時に高さが違うというのも楽しい組み合わせといえるでしょう。小さなリキュールグラスには白酒を入れて、ちょっとおしゃれに。季節感を尊び、雛の料理にちなむ貝を取り入れ、3月に美味しくなるめでたいの鯛や、菜の花などの献立も考えてみました。子供ばかりか大人も喜ぶ姿が目に浮かぶようです。食後は干菓子とお抹茶で締めくくることにします。抹茶碗はお祝いということで磁器を選び、正面に可愛い子犬が手描きで丁寧に絵付けされています。桃の花の形の蓋物には干菓子を入れて。

 雛祭りは女子の成長を願うばかりでなく、母から娘へと家風を伝える意味もあり、娘にとっては食事のいただき方をはじめ、女性のたしなみなどを学ぶ大切な場なのです。毎日を忙しく便利に暮らしている私たちですが、手抜きをするとややもすれば単調になりがちな暮らしの中に、家庭の行事や歳時記を取り入れながら、家族やお客様を飽きさせない工夫をしていきたいものです。

メニュー海老雛ずし、梅酢生姜、菜の花塩ゆで、タイの昆布ジメ、白酒、フグ皮明太子和え、蛤の酒蒸し、ちりめん山椒
桜珍味 草山窯(有田焼)
黄釉菱形皿 草山窯(有田焼)
蛤小付 漆店で購入
青磁花型千代口 文三窯(伊万里焼)
色絵盃(京焼・清水焼)
招福鯛小皿 梶謙製磁(有田焼)
桃釉花びら珍味 瀬兵窯(伊万里焼)
リキュールグラス アンティーク(イギリス)
釉裏紅花文水滴 田中一晃(佐賀県嬉野市)

子犬抹茶碗 畑萬陶苑(伊万里焼)
桃蓋物 畑萬陶苑(伊万里焼)
丸型朱塗り三つ足黒塗り膳 時代物 日本
花器、花壺型ミニ花入れ(備前焼)と菜の花
テーブルクロスKattzwirn-Qualitat(ドイツ)