
遅ればせながら、あけましておめでとうございます。新しい年を迎え、午年にあやかり飛躍を念じた方も多くいらっしゃることでしょう。聞いたところによると、丙午(ひのえうま)の年は新しい何かが始まる年なのだそうですが、はて、何でしょうね。個人的には一昨年からジェットコースターに乗っているような日々を過ごしてしまい、多少疲れ気味。今年は美しいものを観賞して若返りを図り、少しは落ち着きたいと思っていますが、何やら新しいことが待っている予感も。今から少し怖いですぅ~。
一昨年の春、嫁入り?終活?とも思えるような引っ越しをしました。器愛好家としては断腸の思いで数々の器の整理をし、厳選して残したつもりのものを住居と事務所兼仕事場の2カ所に振り分けてしまったため、「あれがない、これがない」と常に探し回ることに。中には行方不明になってしまったものもあります。その一つがお茶箱でした。
お茶箱とは茶道具の一種で、お点前の道具一式を収納でき、持ち運びも可能な箱のことです。千利休の時代から使われていたとされ、当初は桐の木目が見えるように黒漆を薄く塗ったものだったそうです。江戸時代後半には裏千家11代家元・玄々斎が利休型の茶箱をもとにお点前を考案したと伝えられています。以降、さまざまな茶箱が作られ、彫り物や蒔絵を施した優美なものや、中に入れる道具の取り合わせを楽しむ趣味性の高いものへと発展していきました。
私がお茶箱を手に入れたのは、茶道宋偏流に入門してからしばらくたった頃、お茶箱のお点前を習ったことがきっかけでした。縦14.5センチ、横21.5センチ、高さ13.5センチの長方形の箱の中に、使う道具がほぼすべて収まっていて、それらをお客さまの前で美しい所作で取り出し、お茶を点てるのです。お菓子は「振り出し」という小さな壺の中に入れた金平糖で、懐紙という紙がお皿代わりになります。昔の茶人はこのように旅先にも茶箱を携え、茶を楽しんだのでしょう。お茶とお菓子を差し上げた後は、再び美しい所作で、お客さまの目の前で道具をすべてお茶箱の中に収めてしまい、終わると、目の前には最初の箱が何もなかったかのように残ります。一つの茶箱から始まる美しい所作や心遣いが、茶道のお点前の素晴らしい芸術表現なのです。イギリスのアフタヌーンティーでは、お客さまの前で片付けなどいたしません。入門してそれを学んだ当時は、驚きを越えて、「すごいな日本って!」と感動したのでした。
それからというもの、先生のお茶箱が気になってたまりません。飾り気のない上品な素朴さに心引かれました。そのうち、先生と同じようなものがほしいな~と毎回つぶやくように。幸いそのころ、骨董店の奥様がお稽古に同席されていたのを良いことに、それなりのお茶箱を手に入れることができました。このお茶箱さえ台所の片隅に置いておけば、いつでも飲みたいときにポットのお湯でさっとお茶を点てて、飲み終えたらパッとしまえるからです。ちなみにこの茶箱は手に入れてから、かれこれウン十年もたっています。(私の年齢がばれないよう、はっきり年数は記しません。オホホっ)
そのお茶箱を探して2年近くになる正月のある日、夫の散らかった趣味の部屋をおもむろに覗くと、何やら見慣れぬ紙袋が。「ナヌナヌ?」と思って開けてみると、それまで探しても探しても見つからなかったあのお茶箱が入っているではありませんか。箱を開けると当時のまま道具も入っています。嬉しくなり、すぐにお湯を沸かしてTHERMOSのポットに入れ、そのお茶箱を持って、母のいる老人ホームに向かいました。



母の居室に到着すると、持ってきたテーブルクロスを広げ、ささやかな新年の茶会を開きました。お菓子は金平糖ですが、母は糖尿病のため一個だけ。お抹茶は友人からいただいた十日恵比寿の印が入ったもの。筒型の碗は京焼で、向かい鶴の絵柄。平型碗は唐津焼で、三里窯・浜本洋好作の斑唐津で、お茶箱に入る小ぶりの碗です。平夏目、菊割の茶巾立て、振出(ふりだし、金平糖入れ)はいずれも時代物です。茶杓(ちゃしゃく)は、先生と一緒に勉強を兼ねて自分で削ったもので、節のところに岩のような模様があるのが気に入っています。
元旦から寒さが続き、庭には小さな乙女椿(オトメツバキ)が2輪咲いていました。その1輪を摘んで朝鮮唐津の小付に。唐津焼系武雄焼で、汲古窯・峰松義人作です。小さいながら存在感があり大活躍です。
ほんのひと時のささやかな新年の茶会。母も嬉しそうでした。殺風景な母の部屋が一輪の花と一碗のお茶で幸せな空間へと変わりました。ああ、お茶箱が出てきてくれて本当に良かった。先生から手ほどきを受けたころを再び思い出し、いろいろと考えさせられた、新年の茶会でした。あなたも一服いかがですか?






| メニュー | 抹茶(十日恵比寿神社抹茶・福岡県八女市 星野製茶園)、金平糖(京都のお土産) |
|---|---|
| 器 |
斑唐津抹茶碗 三里窯・浜本洋好作(唐津焼) 筒型向かい鶴抹茶碗 窯元不詳(京焼・清水焼) 朝鮮唐津小付 汲古窯・峰松義人作(唐津焼系武雄焼) 懐紙・懐紙はさみ(京都のお土産) |
| そのほか |
茶箱(平夏目・菊割茶巾立・菊割振出) 時代物 茶杓 自作 テーブルクロス コボリ(栃木県) |
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