九州発!田中ゆかりのテーブル通信[46]8月:忘れられない花火大会の思い出

 残暑お見舞い申し上げます。

 肥前地域では、先月の大雨の避難騒動に始まり、30度超えの連続猛暑は当たり前、お次は台風6号とてんやわんやしているうちにお盆に突入するも、再び台風7号でお盆行事どころではなくなりました。こんな中、実家の老猫(推定年齢20歳・人間でいえば96歳)が体調不良になり本日も涙目で見守っているところでございます。

 この猫との出会いは20年ほど前のこと。波佐見焼の商社さんにお仕事で訪問したところ、生まれたばかりの子猫が4匹くらい段ボールの箱に入っており、引き取り先を案じていらっしゃいました。私はその半年前に愛猫を亡くし、あまりの悲しさに「もう飼わない」と思っていたのですが、先方は大変お困りの様子。また子猫のあまりの可愛らしさに心を奪われてしまい、一匹もらい受けてしまったのでした。それからというもの、哺乳瓶でミルクを飲ませたりしながら、子どものようにかわいがってきました。だから本当に私の家族なのです。涙目になってしまうのです。最も長生きしてギネス記録となった猫の年齢は38歳だそうで、人間の年齢に換算すると170歳。それって「化け物」じゃないですか~?「化け物」でもいい、長く生きていてほしいですよね。

 今年の夏はコロナが5類になったことで、旅行やイベント、お祭りなどニュースで目にし、また出かける機会も多くなりました。嬉しかったのは各地で復活された夏の夜空を彩る花火大会です。最近は有料観覧席などもあるのですね。思い出といえば、ちょうど先述の猫がうちに来た頃でしょうか。唐津の花火大会に茶道の先生とお稽古仲間で繰り出しました。この頃はもちろん有料観覧席などありませんので、早いもの順です。明るい時間から砂浜に場所を取り、それぞれの参加者が一品持ち寄りの宴会です。ビールやお酒、おつまみやお刺身、おにぎりや漬物などが集まる中、私は食後のフルーツゼリーをクーラーボックスに入れて臨みました。持ち寄りという方法は、思いがけず誰かの自慢料理に接することで料理のレパートリーが広がることもあり、自分の勉強の場にもなりますね。

 一通り食べ終わった頃から花火が打ち上げられ、暑いけれど満たされた気分。しばし美しい花火の世界に酔いしれ、その乱れ打ちに圧倒され、皆無言に。しかし夢の世界ははかなくあっという間。終了したとたんに、多くの観覧者はなぜか「日常にまっしぐら」とばかりに帰りを急ぐのであります。

 その中で私たちのグループは浜に残り、花火大会の最後をお茶会で締めくくったのです。先生が唐津焼の抹茶碗と冷水、氷を持参して、一碗ずつ点ててくださいました。キンキンに冷えた抹茶を熱風の中でいただくのは、快感にも似た爽やかさで、「抹茶ってこんなに美味しいものだったの?」と初めての冷たい抹茶に感動した私。昨日のことのように思い出します。それ以来、夏は氷を浮かべた冷抹茶をいただきたくなるのです。お碗を取ると、手のひらにジーンと冷たい湿気が伝わり、飲めば唇から舌へ、そして喉、食道へと冷たい抹茶が香りと共に駆け抜けていき、体温が下がったような気分になるのです。

 今回は唐津の刷毛目模様の平型茶碗です。夏の暑い時などは口径の広い平型が好まれます。氷を見せたいならなおさらです。お菓子は見るからに涼やかな、でも食べるには、しばらく眺めていないともったいないような美しい京菓子を頂戴しました。色のない手ふきガラスの皿で引き立てます。竹の菓子楊子(ようじ)を合わせて。庭は暑すぎて花がありません。植木鉢のベコニアを一枝、手作り瓢(ひさご)型の白磁ミニ花瓶に生けてみました。少しでも涼しそうに見せたいので、簾(すだれ)模様のランナーを選んでみましたが、いかがでしょう?

 暑い夏を少しでも涼やかに、快適に過ごす工夫をしてみましょう。

メニュー冷抹茶、京菓子金魚
唐津刷毛目平型碗 峰松義人(唐津焼系武雄焼)
ガラス銘々皿 不詳
竹菓子楊子 山下工芸(大分)
ベコニア
白磁瓢型ミニ花入れ 納富悟(有田焼)
ランナー簾ランナー 不詳