国内美術館で初の中里隆個展 菊池寛実記念 智美術館

種子島擂鉢 1971年

 東京・虎ノ門の菊池寛実記念 智美術館で11月28日まで、国内にとどまらず世界各地で作陶する陶芸家・中里隆の個展「中里隆 陶の旅人」が開催されている。
 1937年、佐賀県唐津市で中里無庵(十二代中里太郎右衛門)の五男として生まれた中里は、20代半ばから作陶の道に入り京都や唐津で修業を重ねる。71年に陶芸家であり、陶磁器研究者でもあった小山冨士夫の推薦を受け、種子島で明治頃までつくられていた「能野(よきの)焼」の復興を目的に渡島し、島の土を使った焼締めの陶器「種子島焼」を手掛けた。74年に唐津に帰郷後、拠点となる「隆太窯」を築窯すると、ますます国内外を自由にめぐり、滞在しながら作陶するようになる。中里の作陶生活は六十年以上に渡るが、国内における美術館での個展開催は今回が初めてだという。
 本展では、初期(60年代)の20代頃に手掛けたものから新作まで、前期・後期に分けて100点余りを展示。ルーツである太郎右衛門窯時代の作品や、大きな転機となった種子島での作品、さらにデンマーク・コペンハーゲンや、アメリカのアンダーソンランチ・アートセンターなど、海外で手掛けた作品も並び、枠に囚われない自由なスタイルからは、中里が訪れる先々での出会いや生活を楽しみ、さまざまな交流を通して感性を磨き、作陶に打ち込んできた様子がうかがえる。朝日新聞社主催第十回現代日本陶芸展で第一席を受賞した「双魚」の習作や、彫刻家の鈴木良一との共作による《山と雲》など、主に器を中心とする中里の制作の中では珍しいスタイルの作品もならび、見る者を楽しませてくれるだろう。また、会場では中里が唐津の隆太窯で過ごす様子を撮影したスライドも上映されている。映し出されるのは、ろくろの前に座る中里や、日課の散歩に向かう姿、客人のために自ら魚をさばいて調理する様子など日常の姿。そのおおらかな笑顔や、ものに触れる際の温もりを感じさせる仕草から、中里にとって器をつくることは、食べることや眠ることと同じように生活の一部であることや、やきものが日々の暮らしにもたらす豊かさを感じる。
 10月14日からは一部展示替えするほか、関連行事としてアーティストトークや講演会も開催予定。詳細は公式ホームページ参照。

菊池寛実記念 智美術館