やきもの曼荼羅[14]中国陶磁(2)五行思想と中国陶磁

理想の青磁、雨過天晴

 青磁の釉色は時代や窯ごとに異なりなかなか微妙です。越州窯(えっしゅうよう)は朽葉色(くちばいろ)、耀州窯(ようしゅうよう)はオリーブグリーン、汝窯(じょよう)は淡い水色です。日本人に最も親しみのある龍泉窯(りゅうせんよう)の砧青磁は、淡く澄んだ青緑色です。青磁の歴史は、原始瓷器(げんししき)と呼ばれる灰釉陶器の誕生以来、その理想的な青色を求めての技術の発達史ともいえます。なかでも汝窯の「雨過天青(うかてんせい)」は、中国人が最高至上の神とする天の青色です。
 大阪市立東洋陶磁美術館所蔵「青磁水仙盆」は、日本にある汝官窯作品2点のうちの一つです。楕円形の盤(ばん)で四足が付き、口縁部には銅の覆輪が付きます。典型的な汝窯の「天青色」で、とくに底部の釉色がことのほか美しいといわれています。この「水仙盆」は台北の故宮博物院の4点、大阪市立東洋陶磁美術館に1点収蔵されるほか、伝世品として知られているのはたった5点しかありません。

青磁は南、白磁は北

 中国では「南青北白」と呼ばれ、青磁は南で白磁は北で発達しました。北宋時代には象牙のように美しい定窯(ていよう)白磁や青く澄んだ影青(いんちん)と呼ばれる青白磁が完成します。元時代には、良質な陶石と陶土に恵まれた景徳鎮が白磁の生産を独占します。白いやきものを作るためには、白い素地と透明な釉薬が不可欠です。この白い素地と透明な釉薬の完成により、やがて青花(せいか)や五彩といった施文技法が誕生しました。以後、中国陶磁は色彩や文様に鑑賞の眼が移っていきますが、やきものの基本はなんといっても胎土(たいど)です。やきものの色は釉薬を通して見える胎土によって質感や品格が微妙に変ります。そこには玉の鑑賞で培われた、中国人ならではのやきもの観が存在します。

五行思想と中国陶磁

 古代中国では五行思想に基づく五色(青・赤・黄・白・黒)が色の基本となり、この五色を正色といいました。元・明時代になると呉須(ごす)を使った青花(染付)、清時代には藍釉(らんゆう)・月白釉(げっぱくゆう)など数多くの釉薬が誕生します。しかし、中国の文人や知識人たちは漢民族の誇りからか青磁を愛し、貿易陶磁として大量に輸出された青花は受け入れなかったといいます。すなわち元朝も清朝も異民族国家なのです。
 青は五行では木で、木は生命の発生、成長を意味します。季節は春、方角は東、五獣は青龍です(写真参照=龍泉窯小鉢)。
 白磁はシルクロードによって伝えられたガラスや銀器に触発されて、唐時代に流行しました。古来、中国では白は純潔の象徴とされ、歴代皇帝はこよなく白玉を好みました。白は五行では金で、金はそのままでも、またどのようにも質や形を鋳造することが出来ます。季節は秋、方角は西、五獣は白虎です。
 赤は漢民族を象徴する色です。赤いやきものというと、古くは紅陶(こうとう)と呼ばれる赤褐色の土器が思い浮かびます。宋時代には銅化合物の還元焼成による辰砂釉(しんしゃゆう)、元・明時代には釉裏紅(ゆうりこう)、清時代には深紅色の郎窯紅(ろうようこう)などが誕生します。赤は五行では火で、火は熱く燃え上がります。季節は夏、方角は南、五獣は朱雀です(写真参照=桃花紅盤)。
 新石器時代後期の龍山文化を代表するやきものが黒陶であり、卵の殻のように薄いことから「卵殻黒陶(らんかくこくとう)」と呼ばれました。中国では、黒いやきものは青磁・白磁とともに各時代を通して作られていますが、わが国では天目や磁州窯系の黒釉陶磁が知られています。「玄」(くろ)という字には、黒色の他に奥深いという意味があります。玄人(くろうと)はその道の達人のことです。玄は五行では水で、水は流れに下って冷たく人を潤おしてくれます。季節は冬で、方角は北、五獣は玄武です。
 中国では黄色は皇帝しか使えず、皇帝のいる宮殿や離宮などの屋根には黄色の瓦が使われました。黄は五行では土で、土は豊かな大地とその稔(みの)りを意味します。方角は中央、五獣は黄龍です(写真参照=黄釉盤)。

桃花紅盤(とうかこうばん) 康熙時代(写真提供:井上オリエンタルアート日本橋店)
黄釉盤(おうゆうばん) 雍正在銘(写真提供:井上オリエンタルアート日本橋店)

やきものの思想

 古代中国人は、宇宙の根源は木・火・土・金・水の五つの元素からなると考えていました。やきものも、この五元素によって生じます。土は粘土です。やきものは、その土を水で練って形を作ります。火は窯の焼成です。木を燃料に風を送ることで窯の火を焚(た)きます。薪の灰は釉薬としても使います。その他、釉薬には鉄や銅などの鉱物が使われます。
 また、古代インドでは、宇宙の構成は地・水・火・風・空の五つの元素からなると考えられていました。陶芸家の辻清明氏は、この地・水・火・風・空の五大自然を体感しつつ、制作活動をしていました。これは、やきものの思想です。