西浦屋の繁栄を支えた熊谷吉兵衛 土岐市美濃陶磁歴史館

「西浦焼釉下彩獅子文花瓶」明治時代(20世紀)土岐市美濃陶磁歴史館蔵

 岐阜県の土岐市美濃陶磁歴史館で2月26日まで、後に西浦焼を製造する美濃の大陶商「西浦屋」を支えた商人熊谷吉兵衛(1814~90)の生涯をたどる展覧会を開催している。

 西浦屋(当主=2~3代西浦円治)は江戸時代、陶磁器仲買商だった。1846年に大阪支店、47年に江戸支店を開設し、美濃焼の広域流通を掌握。この2支店開設の実務を担ったのが3代円治と熊谷吉兵衛である。吉兵衛は西浦屋の商売の傍ら、「勤勉・倹約・正直」を説く道徳的な学問(石門心学)に熱心で、商売で得た利益を社会に還元するという考え方を西浦屋の経営理念に取り入れた。明治時代4代の頃から、西浦屋は「西浦焼」の製造を行うようになり、5代の頃に事業が拡大する。

 同展では、陶磁器作品ほか、幕末の西浦屋の動向がわかる古文書(熊谷吉兵衛筆)、石門心学関連書物など40件を紹介している。このうち陶磁器は、幕末の美濃焼、西浦焼など15件72点。写真は2頭の獅子がレリーフ状に装飾された花瓶で、釉下彩の技法で彩色されている。西浦焼の代名詞ともいえる作品だ。
 春日美海学芸員は「美濃焼の広域流通網を築いた幕末、陶器商・西浦屋の経験と財力が明治時代に西浦焼を生んだ。西浦屋の繁栄の背後には、熊谷吉兵衛というユニークな人物がいたことを知ってほしい」と話している。

土岐市美濃陶磁歴史館