伯爵家の優美な陶磁器披露 「Bunkamuraザ・ミュージアム」

ウィーン窯・デュ・パキエ時代(1718-1744)《カップと受け皿(トランブルーズ)》 1725年頃、硬質磁器、黒呉須、多彩色上絵付 所蔵:リヒテンシュタイン侯爵家コレクション、ファドゥーツ/ウィーン
© LIECHTENSTEIN. The Princely Collections, Vaduz-Vienna

 「建国300年 ヨーロッパの宝石箱リヒテンシュタイン 侯爵家の至宝展」が、東京・渋谷のBunkamuraザ・ミュージアムで、12月23日まで開催されている。
 リヒテンシュタインは、スイスとオーストリアに挟まれた小国だが、世界でも屈指の規模を誇る個人コレクションを有し、その華麗さは宝石箱にも例えられている。同展では侯爵家秘蔵の油彩画と、貴族の趣向が色濃く反映されたウィーン窯を中心とする優美な陶磁器、合わせて約130点が披露されている。
 7章で構成される同展。4章「磁器―西洋と東洋の出会い」では、東洋の磁器にヨーロッパ人の趣味に合わせて金属装飾が施された作品などが紹介されている。景徳鎮窯の青花の壺に鍍金したブロンズの装飾金具を付けた作品や、古伊万里の蓋物にウィーンで豪華な金属装飾を付けた作品などがならぶ。
 5章「ウィーンの磁器製作所」では、1718年にデュ・パキエが設立し、ハプスブルグ家の庇護を受けながら、優れた磁器作品を数多く生み出したウィーン窯の華やかで、技巧を凝らした作品を見ることができる。「カップと受皿(トランブルーズ)」は、当時貴重だったホットチョコレートがこぼれないようにと、受皿を付けたもの。ウィーン窯のものはカップが動かないように受皿に環状の枠が付けられている。
 7章「花の静物画」には、陶板画や花柄の磁器も多数出品されている。時代の趣味に合った花が描かれた磁器を数多く生み出した「ウィーン窯」で、専門の絵師により花が写実的に描かれた「盆地花文クラテル形大花瓶」や、12客のティーカップと受皿に、すべて異なった絵柄で、花々が手描きされた侯爵家の豪華なティーセットなど、格調高い花の絵付けを堪能することができる。

九州陶磁文化館の鈴田由紀夫館長による講演会

講演した佐賀県立九州陶磁文化館館長の鈴田由紀夫氏

 10月24日には、同展の監修者で、佐賀県立九州陶磁文化館館長の鈴田由紀夫氏による講演会が開催された。
 表題は「磁器―西洋と東洋の出会い」。話はリヒテンシュタインの城の応接間で語る、現在の当主ハンス・アダム2世の画像からスタート。鈴田氏が調査のために訪れたリヒテンシュタインの城やウィーンにある夏の離宮で、実際に目にした質の高い美術品、さらに同展に出品されている陶磁器へと進む。
 例えば1600年頃に中国で作られた芙蓉手の大皿。見込の中央に大きな円窓を設け、周囲を区画してやはり窓を作り、それぞれに染付の模様を施す華やかな皿は、「当時ヨーロッパで脚光を浴びた大ヒット商品だった」と鈴田氏。それを見た有田はすぐにコピーを始め、輸出するが、「残念ながらリヒテンシュタインのコレクションに、有田の芙蓉手はなかった」という。
 ヨーロッパでは、東洋の磁器に金具を付けて飾ることが、よく行われていたが、「このコレクションの金具は、細工の技術も高く一級品」とのこと。「でもやきものに聞いたら、穴をあけられたり、付属の蓋を取られたり、きっと嫌だって言いますよね」と、ユーモアのある表現で参加者の笑いを誘う。
 講演は世界の磁器生産の歴史や、「中国が有田をパクった」チャイニーズ伊万里、陶磁器を彩る和絵具と洋絵具の違いへと広がり、一時間半にわたる西洋と東洋のストーリーは幕を閉じた。